日本の航空行政を担う国土交通省が、令和7年度予算概算要求の内容を発表しました。
事業官庁である国交省は、施策と予算はセットとなりますので、この概算要求資料を読めば、日本の航空行政が何を考え何をしたいのかがわかってきます。
そこで、今回はこの資料から、航空局に関する部分、とりわけ飛行機を利用する人に関わる部分についてピックアップして解説と自分なりの推察と意見を書けたらなと思います。アフターコロナの空港のことなんかも、これを読めば少しわかってきます。
目次
予算概算要求とは?
概算要求とは、毎年8月末に各府省が「次年度の予算これだけくれ!」というのを財務省に出すものです。このあと、財務省による査定を経て、クリスマス頃に次年度の予算の原案ができ、2〜3月で国会で審議され決定するものです。
なので、概算要求資料を読むと、各府省が来年度にやりたいこと、やろうとしていることが見えてくるんですね。
国交省の概算要求資料が公表
今回国交省は8月末に概算要求の概要を公表しました。詳細は以下のページでご覧いただきます。
この資料、これ全部読むとけっこう大変ですよー。ついでに言うと、国交省のサイトってやたら重いので、ダウンロードにめっちゃ時間がかかるんです。
なので、全体を御覧いただきたい方は上記リンクからと思いますが、今回、私がそこから航空局に関する部分を中心に抜き出して少し解説もできればと思います。
航空局の概算要求は約4,000億円
国交省の予算要求のうち、航空局に関する予算は、空港整備に関する特別会計が3,947億円、一般会計で85億円となり、合計すると約4,000億円となります。けっこうな予算規模ですね。
国交省航空局には様々な仕事があり、管制業務などにについても読んでいて面白いのですが、例えば高高度の管制を福岡に一本化するとかそういう話をしても、飛行機を利用する人からすれば、それで何が便利ななるの?というのがありますので、この記事では、飛行機に乗る人、旅行が好きな人、空港が好きな人に興味がありそうな部分をピックアップして書いてみたいと思います。特に空港部分について書ければと思います。
航空の安全・安心の確保
まずはここが重要でしょう。1月2日、羽田空港で発生したJAL機と自衛隊機の接触事故を踏まえ、必要な予算要求を行っています。
具体的には、航空機等が滑走路を使用している場合、他の離陸しようとする航空機又は滑走路を横断しようとする航空機等に対して警告する灯火である滑走路状態表示灯(RWSL:RunWay Status Lights)というのがあるのですが、これを主要空港の同一滑走路で離着陸が行われる全ての滑走路及び誘導路に導入を拡大します。
そのほかにもヒューマンエラー防止や管制業務の実施体制の強化等を行う予定です。マジで羽田の管制はカオスですからね…。正直あれでよく事故起こらないなと感心しています。
安全な空の旅のための投資は怠らないでほしいですね。
保安検査スムーズ化に向けた取り組み
昨年から特だしされた事項が、航空業界の人員確保と効率化に関する問題です。
今後、急速な増加が見込まれるインバウンド需要の一方、人員不足が目立つため、航空・空港関係事業者の人材確保・育成等の取組を推進するとともに、空港における受入環境高度化等に対して支援します。空港での採用活動を支援したりするようですね。
そこで国交省は保安検査の機械化、効率化を進める支援を行っていきます。具体的には、複数人が同時に荷物検査の準備ができ、空港によっては手荷物検査でPCやペットボトルの水を出さなくていい「スマートレーン」の導入を進めていきます。これは検査を受ける側も検査台でさっと荷物を置けるので、結果として待ち時間を減らす効果があります。私もPC持ち歩いて飛行機乗るので、これ便利なんですよね。
現在、国内線は羽田、伊丹、福岡、那覇等で導入されていますが、2025年春から、セントレアで導入が開始される予定で、さらに普及をすべく国交省が支援するようです。
正直、セントレアより先に新千歳を…とは思いますが、セントレアは改修もあるのでそちら優先なんでしょうね。
また、ボディスキャナー等の高度な保安検査機器への入れ替えの促進等を推進し、空港の保安検査の混雑緩和につなげていくようです。
この辺はまた別の問題があって、現在って保安検査の実施主体って航空会社なんですよね。これ国とか空港だと思ってる人多いんじゃないかなと思うのですが、航空会社なんですよ。だから那覇空港でJALだけスマートレーン対応しているとかいうことにもなるんですが。
で、この保安に関する費用も航空会社が50%持っているんですが、これを国や空港に移すという話も上がっています。いずれ大規模な空港でも保安検査は1か所に集約とかされていくでしょうね(関空国際線が1か所に集約されたように)。
羽田空港は空港アクセス鉄道整備や空港機能拡充費用を計上
それでは、それ以外の具体的な空港ごとの整備についてみていきたいと思います。
羽田空港はいろいろと新たな設備を今後作っていくので、その準備費用が計上されています。特に鉄道アクセスについてはしっかりとみていきたいと思います。
まずは羽田空港の国際競争力増加に向けて、JRが検討している羽田空港アクセス新線です。
現在、羽田空港からJRに乗る場合、京急で品川にでるか、モノレールで浜松町までいき、そこからJR各路線に乗り換えることになりますが、今後、貨物線の路線を活用しつつそれを羽田空港まで延伸し、直接結ぶ鉄道を整備し、東京駅から18分、新宿駅から23分、新木場駅から20分で乗り換えなしで羽田に向かうことができるようになります。
この路線の設備工事に来年度から本格着手することになるので、その費用計上がなされています。まずは東山手ルートからということで2031年度開業を目標に東京駅直通で工事をしていますが、りんかい線経由で新木場にも2031年度に開業する方向で工事を進めることになっています。
また、京急線では、終点の羽田空港第1・第2ターミナルから200メートル延伸し、ここに引き込み線をつくる計画があります。
今は羽田空港駅についたらその場で折り返し運行していましたが、これだとホーム上で折り返し作業を行う必要があるため、一定時間ホームに車両を止めておく必要があります。そのため、これ以上の増便は難しいです。
これを、一度引き込み線にいれた後、折り返して品川・横浜方面行の列車として運用することを京急は目指しています。これをやることにより、今までよりも増便が可能になるほか、座席指定列車なども運用しやすくなります。
現在でも羽田空港ー成田空港直通の「アクセス特急」が現在ありますが、現在はロングシートタイプの車両での運用です。引き込み線ができれば、座席の向きを直したりすることができるので、指定席タイプの運用ができると思いますし、おそらくやると思います。
このほかにも、羽田空港ではトーイングカーや沖止めの際に旅客を運ぶバスなどについて、2025年度を目標に自動運転を目指しているようで、それに関する経費も計上されています。人が足りない部分はAIをどんどん活用していくべきですね。
成田空港は3本目の滑走路整備で発着枠増加へ。そしてターミナル集約へ…
羽田空港の国際線路線の増加は著しいですが、正直、これ以上は5本目の滑走路作るか横田の空域がかえってこない限りこれ以上枠を増やすのは困難です。そのため、成田空港も引き続き大事な空港です。
主要路線こそ羽田に譲ることになりますが、羽田で賄いきれない路線やリゾート路線、そしてLCCに貨物と、成田空港の役目は落ちるどころか今後も伸びていくでしょう。
ここ数年で、高速離脱誘導路の整備や空港発着時間帯の拡大により空港の発着の容量を増やしてきました。昔は成田空港は6時から22時までの運用でしたが、現在は24時まで便数制限なしで離着陸することが可能となっています。ひと昔前の成田のイメージとは違うんです。
また、現在のB滑走路は2,500メートルしか滑走路がないため超大型機の離発着が困難ですが(といってもA380もB747も、そう多くは飛んでこないでしょうが…)、B滑走路を3,500メートルに延長するとともに、3本目の滑走路の建設準備も進んでいます。
これらの完成は2029年3月を目指しており、この整備によって、3,000メートル級3本という、国内外のメガ空港と同レベルの滑走路を備え、処理能力は国内線がひっきりなしに飛んでいる羽田と同レベルになります。
また、今回の予算要求からは外れますが、成田空港は3つのターミナルを1つに集約する構想があります。ロングピアを配置するので、イメージ的にはバンコク・スワンナプーム国際空港に近いでしょうか。あれ、移動距離長いから大変なんですよね…。
関西国際空港は第1ターミナルの改修など…
大阪では、関西国際空港の第1ターミナルについて、運営会社のもと開港以来初の改修を進めています。これは国際線機能の強化を目的としており、現在は国際線の一部リニューアルがまもなく行われ、2025年以降は保安検査場やラウンジ等の主要施設のリニューアルが終わります。
関空T1の国際線ラウンジ、共用ラウンジに全て統合。プレミアムラウンジとビジネスラウンジの2か所。
ANAラウンジ、サクララウンジ、KALラウンジなどは全て閉鎖へ。 pic.twitter.com/fxJyFSRaGA
— Takuya Goto / TRAICY.COM (@tak_goto43) August 26, 2024
先日話題となったのはラウンジですね。ANAラウンジ、サクララウンジ、KALラウンジなどは全て閉鎖し、新たにエアポート主導の共用ラウンジになるようです。関空くらいの規模だと、エアラインもラウンジを自力で保有するメリットがあまりないですかね…。日系もうちょっと頑張ってほしかったですけど。
神戸空港国際化
2025年、大阪万博にあわせて神戸空港は国際空港となります。といっても最初は万博対応のためのチャーター便のみの就航で、CIQをしっかり整備した上で定期便が就航するのは2030年を予定しています。サテライトのターミナルを作ってそっちで国際線を捌くようですね。
滑走路は2,500m、1日あたり発着陸は40回までという制約から、おそらく就航するのはソウル、台北、上海、香港などの近距離のみになるかと思いますが(おそらくLCC中心でしょう)、それでも関西の方にとってはありがたいことではないでしょうか。
なお、神戸市の資料をみたところ、国際線の制限区域内にラウンジの設置はないようです。
中部空港は代替滑走路の設置へ(2本目じゃなかった)
昨年度のこの記事で、中部空港に2本目の滑走路計画?まじかよ?と取り上げましたが、これは今の滑走路を閉鎖するものでした。去年の資料ははA滑走路、B滑走路となっていたのが、今年は滑走路と代替滑走路という書きぶりに変わっています。
中部空港は24時間運用のため、開港から一度も滑走路の大規模補修を行っていないことから劣化が進行しています。そこで、大規模補修時においても、継続的な空港運用を可能とすること及び完全24時間運用を実現すること等を目的として、滑走路の増設等の機能強化の取り組みを進めるようです。
那覇空港はデッキ延長で車の混雑緩和へ
那覇空港の現在の課題は周辺環境の悪さです。那覇空港は観光客の増加に伴い、バスやタクシー、レンタカー送迎車等による構内道路の混雑が深刻化しています。3階の国内線ターミナルの前、今でも観光シーズンは車がいっぱいとまっていますよね…。
これについて、国内線ターミナルビル3階前面の高架道路(ダブルデッキ)を国際線ターミナル前面まで延伸することで混雑解消を図ります。
屋久島空港の滑走路延長
今年は目新しいネタがないなと思っていたら、マイナーなところで屋久島空港の滑走路延長の話が書かれていました。
屋久島空港は現在鹿児島のほか福岡と大阪便がありますが、首都圏からの直行便の就航を可能とするため、現行1,500mの滑走路を2,000mに延伸することになっています。
2,000mあればエアバスA320は問題なく離着陸できますので、これで羽田=屋久島便なんてのができるかなと思います。なお完成は2033年ということでまだ10年近くかかります。
まとめ
国交省の概算要求資料から、来年以降の航空行政の展望をみてみました。羽田空港のアクセス強化やAIの活用、成田空港の滑走路延伸の先に見据えるターミナル統合など、首都圏空港は次なるステージへと足を踏み入れています。
また、神戸空港の国際化などの中規模の空港から、屋久島のような小さい空港まで、どんどんこの先を見越して動いてきています。
ちょっと怖いのがどの省庁も予算要求がかなり過激に行われていることです。どれだけ財務省が理解を示すかというところもあるでしょう。もちろん予算の無駄遣いはいけませんが、ぜひとも航空局には予算を確保してもらい、実現を図ってもらいたいものです。