日本の航空行政を担う国土交通省が、令和2年度予算概算要求の内容を発表しました。
昨年度も当ブログで取り上げましたが、施策と予算はセットとなりますので、この概算要求資料を読めば、日本の航空行政が何を考え何をしたいのかがわかってきます。
そこで、今年もこの資料から、航空局に関する部分、とりわけ飛行機を利用する人に関わる部分についてピックアップして、解説と自分なりの推察・意見を書けたらなと思います。
目次
予算概算要求とは?
概算要求とは、毎年8月末に各府省が「次年度の予算これだけくれ!」というのを財務省に出すもののことです。
このあと、財務省による査定を経て、クリスマス頃に次年度の予算の原案(政府案決定)ができ、2〜3月に国会で審議され、決定するものです。
なので、概算要求資料を読むと、各府省が来年度にやりたいこと、やろうとしていることが見えてくるんですね。
国交省の概算要求資料が公表
今回、国土交通省は8月28日に概算要求の概要を公表しました。詳細は以下のページでご覧いただけます。
で、国交省はジャンルが広いので、ページの一番下に、部局ごとの要求の概要のPDFファイルがついています。
全体を御覧いただきたい方は上記リンクからみていただくと、いろいろ面白いと思いますが、みなさんそんなに暇ではないと思いますので、今回、私がそこから航空局に関する部分を中心に抜き出して少し解説もできればと思います。
航空局の概算要求は4,517億円
国交省の予算要求のうち、航空局に関する予算は4,517億円となります。
けっこうな予算規模かと思いますが、国交省全体で一般会計は7兆円をこえていますので、そこまで多くはないんです。
航空局には様々な仕事があり、管制業務やドローン規制までお仕事に含まれ、相応の予算がついていたりするのですが、この記事では、飛行機に乗る人や旅行が好きな人、空港が好きな人に興味がありそうな部分をピックアップして、今後の国交省や空港運営を担う民間企業の展望書いてみたいと思います。
羽田空港は国際線増便、空港アクセス鉄道整備にかかる費用を計上
羽田空港では、2020年3月から離着陸の回数を増加させるために、都心上空も通るなど、飛行経路の見直しを行っています。
現在、羽田空港の離着陸は、東京湾方面から出入りしていたんですが、都心の上空も活用することにより、より多くの飛行機の離発着ができるようにになります。
実際、来年3月から国際線の本数が、現在の1.5倍となることが決まっており、先日、発着枠が確定しました。また、2020年度からは第2ターミナルの一部が国際線にも転用されますので、準備が進んでいます。
これで羽田はひと段落…というわけではありません。2020年度からは、羽田空港に関する新たな取り組みが予算計上されていました。それが、羽田空港の国際競争力増加に向けて、JRが検討している羽田空港アクセス新線。
JRの各路線と羽田空港を直接結ぶ鉄道を整備し、東京駅、新宿駅、新木場駅などから乗り換えなしで羽田に向かうことができるようになります。
この整備に関する費用計上がなされています。JRの環境アセスメント資料などをみると、2029年開業を目標に、まずは東京駅に直通する計画となっています。個人的には新宿方面への早期の開通を期待したいところですね。
成田空港は第3ターミナルの拡充へ
成田空港では、首都圏空港の機能強化に向けて、高速離脱誘導路の整備等により2020年までに空港処理能力を約4万回拡大する取組を進めています。
成田空港は6時から22時までの運用が原則となっており、便数制限をかけたうえで23時までとなっています。これが、この10月末から24時まで便数制限なしで離着陸することが可能となります。これは旅客便のみならず貨物便にも非常によいことだと思います。
また、将来的には成田空港に3本目の滑走路もできることになっています。ようやくここまでたどり着いたか、という感じですが…。
このように、今後LCCの市場成長により成田空港の役割は羽田空港が拡張しても維持されるとみられ、抜本的な能力増強策として、成田空港では第3ターミナルの増築事業が運営会社主体で行われるとともに、国交省としても、第3ターミナルの税関、検疫、出入国施設などの空港関連施設を整備することになっています。
伊丹空港はターミナル改築完成へ。関西国際空港は目新しい事業なし
伊丹空港と関西国際空港については、国交省としては特段目新しい内容はありません。淡々と航空保安施設の更新費用が計上されています。空港の運営自体は、関西エアポート株式会社が行っていますので、こちら側では進捗がありそうです。
伊丹空港についてはどんどん改修が終了してきており、来年で完成し、新しい空港として生まれ変わりますし、関西空港については去年の台風を受けた防災機能の強化を推進します。
中部空港は需要拡大のための検討へ
中部空港は、LCC専用ターミナルがこの秋に完成するものの、空港の機能に対して需要が追いついてきていません…。そもそも24時間運用できる空港なんですが、そんなにニーズがないという…。悲しい…。
航空局からは、経常的に予算要求する設備の更新費用のほか、中部圏の航空需要の更なる拡大と現施設のフル活用を図るための検討を実施するための予算を計上しました。こんな予算を計上しなきゃいけないのが悲しいですが…。
福岡空港の第2滑走路建設と発着枠拡大
日本有数の混雑空港と化した福岡空港ですが、来年から現在1時間あたり35回の発着回数を、38回まで増加させる取り組みを行います。これにより国際線の増加などが見込まれますね。
そして第2滑走路の建設です。
2025年の第2滑走路完成に向けて、官民合計総額1,800億円を投入していくことになります。2本の滑走路が210メートルしか離れていないので、運用が難しそうで、そこまで便数増えないんじゃないかと思いますが…。
那覇空港は第2滑走路完成、デッキ延長
那覇空港は来年の春に第2滑走路が完成します。これでスムーズな離発着がなされることを期待したいところです。
そして、那覇空港は観光客の増加に伴い、バスやタクシー、レンタカー送迎車等による構内道路の混雑が深刻化しているため、国内線ターミナルビル3階前面の高架道路(ダブルデッキ)を国際線ターミナル前面まで延伸することで混雑解消を図ります。
新千歳空港の誘導路整備
新千歳空港は雪が多い空港で、冬には航空機の欠航や遅延が頻発してしまいますが、要因の一つとして、除雪車両や駐機場へ引き返す航空機の導線が確保されていないことがあるそうです。
そこで、来年度は誘導路複線化の整備を行い、冬期における航空機の欠航や遅延の回避・軽減を図ります。
離島路線の持続性問題
経営基盤の弱い離島路線を運航する航空会社をいかに持続可能な交通インフラにするかという問題があります。2018年の3月に国交省の検討会が、以下の5社について、「合併か統合を模索すべき」という提言がなされました。
- 北海道エアシステム(北海道・JAL系)
- ANAウイングス(北海道/九州・ANA系)
- 天草エアライン(九州・JAL系)
- オリエンタルエアブリッジ(九州・ANA系)
- 日本エアコミューター(九州・JAL系)
実際、利用者が少ないこれらの航空会社は、協同によって経営を安定化させようという取り組みがあります。
特に九州では、JAL、ANAとオリエンタルブリッジ、日本エアコミューター、鹿児島県、長崎県の合同プロジェクトで「しまとびクーポン」なるものを発売しています。
10,000JALマイルでオリエンタルブリッジ15,000円分のクーポンが、10,000ANAマイルで日本エアコミューター15,000円分のクーポンに交換することが可能ということで、エアラインの系列を超えた取り組みですね。
国交省も、地域航空会社が協業しての商品開発・プロモーション体制の確立のための調査などを側面支援していくそうで、今後このようなキャンペーンも増えていくかもしれません。
顔認証による「顔パス」ゲートの運用開始
最後に観光庁が計上している、顔認証ゲート関係のことについても触れておきたいと思います。
2019年1月から1人あたり1,000円が課されることとなった出国税(国際観光旅客税)は目的税であり、観光関係に使われることとなる税金です。これを活用して、旅客が行う諸手続や、空港内外の動線を一気通貫で円滑化・高度化し、旅客満足度の向上を図ることとしています。
具体的には、過去に当ブログでも触れましたが、2020年から顔パスによる出国審査が成田空港で、ANAとJALを利用する日本人に対して実施することになります。
2020年春から成田空港では、顔認証によるシステム顔認証技術を用いた搭乗手続き「OneID」を導入することになりました。これは、航空会社でのチェックイン時に顔写真を登録することで、保安検査や搭乗ゲートなどを止まることなく通過できるようになるものです。
チェックイン時に顔写真をシステムに登録することによって、利用者はチェックイン時に搭乗者の顔写真とパスポート情報、搭乗情報を関連付けし、システムに一時的に保存します。
そうすると、保安検査場入り口や搭乗ゲートなどで、歩きながら顔写真を撮影をし、システムの情報と照合することにより本人確認を行うというものです。
この「OneID」の導入により、保安検査や出国審査、搭乗ゲートの各ポイントでの搭乗券やパスポートの提示が不要となります。利用客はチェックイン時に登録した顔写真で本人確認することで歩きながら手続きすることができ、いわゆる「顔パス」(ウォークスルー)で通過できるようになるのです。
まとめ
国交省の概算要求資料から、来年以降の航空行政の展望をみてみました。羽田空港の再拡張、成田空港の深夜開放などの取り組みが進み、羽田のアクセス線、成田のターミナル増築など、次なるステージへと足を踏み入れています。
また地域拠点の福岡空港、那覇空港、新千歳空港でも発着数の増加に向けた取り組みなどが行われていますね。中部はちょっと残念な形で、「テコ入れ」として予算計上していますが…。
もちろん無駄遣いはいけませんが、ぜひとも航空局には予算を確保してもらい、実現を図ってもらいたいものです。